被害者は医療ミスをどのように感じているでしょう。
医療ミスを追究する目的は、主に以下の3点です。
@ 真実解明
A 再発防止策
B 被害への補償
被害者がこのように考えるのは極めて自然な意識です。
治療内容に疑問がある場合、誰でも事実を知りたいと思います。
医療水準に満たないミスによって被害を受けた時に、何故ミスがおこったの? という疑問が必ず起こります。
@ 真実解明
真実が明らかにされることは最も重要です。
被害者が状況を確認するために医療者に面会を求めるとき、医療者を徹底的に懲罰することが目的ではありません。この時点では単に真実を知りたいと考えています。
特に獣医療では、稚拙な単純ミスが多発する現状であり、飼い主が指摘する内容の多くは明白なミスの例です。
換言すれば、人医療と異なり、ミスを問う時に学術的判断が難しい症例での訴えは少ないということです。このような場合、大多数は治療に疑問があっても泣き寝入りしています。
このことは、逆にいえば獣医師にとってミスの原因を飼い主に説明しやすい環境といえます。ミスの原因も理由も言わずにただ謝れば解決するというものではありません。もしミスの原因を理解していないならば、何を謝罪するのかさえ明らかではなく、いずれ同じミスを繰り返します。
ところが、誰が見ても明らかなミスであるにもかかわらず、飼い主に不誠実に対応し嘘をつく獣医師がいます。その行動は、飼い主の常識の範囲を超えて理解不能です。その獣医師は一般の正常な社会人とは言えませんし、まして正常な獣医師とは言えません。その存在が獣医療全体の品位を大きく損ねています。
A再発防止策
被害者は、同じような被害が起こって欲しくないと切望します。新たな被害者を作りたくない、そして医療者に同じ過ちを繰り返して欲しくない、と考えます。医療ミスが関係者に与える大きな苦痛を知っているからこそ、再発防止を強く願います。
防止策の実行は、安全な医療を確立し、被害者の苦痛を救済するための絶好の機会です。
B補償
補償は、被害者の経済的損失または精神的損失に対してなされます。
一般的な補償の方法は、金銭、文書、または話し合い等があります。
法的には損失に対して金銭で賠償することが一般的です。しかしすべての被害者は法に訴える前に話し合いを求めており、最初から金銭での解決を望んでいるわけではありません。
また金銭的補償に関しては、人間と動物では金額が全く違います。
獣医師はこの事実を理解する必要があります。つまり、飼い主はお金が欲しくて訴えているのではないということです。
獣医療界では金額は一般的相場で対応することが多いようですが、実際に要した費用や労力、また、飼い主が受けた精神的ダメージには大きな幅があります。また飼い主がどのような補償を望むのかも違います。
補償は最終的に考慮される問題です。
それまでに、「真実解明と再発防止策に誠実に取り組んでいるかどうか」、によって補償の内容は大きく変わります。
ミスは何故おこったのか、どのようにしたら回避できたのか、どんな予防策が可能なのか、獣医師がミスの本質を知っていれば、ふさわしい補償案が見えてきます。
誠実に対応すれば、互いの精神的負担も金銭的な負担も軽減されます。
最初から「ほどほどの賠償金を払って解決すればよい」と考えて対応すると問題をこじらせるだけです。
また、被害者は医療過誤の有無のみを訴えるわけではありません。
有名な医学雑誌「New England Journal of Medicine」(324巻370頁1991)に、米国の医療事故について述べられています。
ハーバード大学の研究「Harvard Medical Practice Study(HMPS)」では、入院患者30000人の検討で、1300例(3.7%)に医療事故が発生し、そのうち300例が医療過誤でした。医療事故による死亡は13.6%で、死亡例の約半数は医療過誤によると指摘しています。入院患者1000人として、40人が事故、10人が過誤に遭い、1000人中2人が医療過誤により死亡していることになります。 (図1参照)
この事実は驚くべきことで、医療界にとって衝撃的でした。
同時に驚きだったのは、医療過誤が存在した280例で実際に医療過誤で実際に損害賠償請求が請求されたのは8例のみであった点です。
全30000人例で過誤による損害賠償請求がなされたのは51例ですが、大部分はHMPS研究班が「過誤なし」と判定した例でした。
つまり、実際の医療過誤被害者280人中272人は損害賠償を請求していない一方、過誤に対する損害賠償の訴えは実際の過誤の有無とは無関係のところで起こされていたのです。
医師と患者のコミュニケーション不足や信頼不足が医療訴訟をおこす重要な要素となることがあきらかです。

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