医療ミス(失敗)は、獣医師にとって常に起こり得る問題です。ミスは、嫌なこと・悪いこと・恥ずべきことですが、意味や原因を正しく検証しなければ進歩はありません。
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●医療過誤の中で人的ミスはヒューマンエラーと呼ばれ、医療ミスのほとんどがこれに該当します。過信、おごり、あせり、先入観、誤った知識や行動などがエラーを生みます。●ミスはどうしても起こります。(TO ERR IS HUMAN)新しい治療や未経験例の治療ではミスを犯す可能性は高くなります。その経験を通して獣医が知識を習得し、熟練してゆくことは事実です。獣医師も人だからミスを犯すという考えは、一面において真実です。●許されるミスと許されないミスがあります。許されるミス現在の医療レベルで解決できない難病や困難例の医療ミスがこれです。その治療中に得られる情報は十分研究され、その後の医療レベル向上に反映されます。許されないミス同じ愚行を繰り返すミスです。不注意や不真面目が原因で、多くの医療ミスがこれに該当します。今回の麻酔ミスはこの代表例です。獣医が基本に忠実であれば回避できました。●ミスの発生には理由があります。【1件の重大災害のうしろに29件の軽災害があり、そのうしろに300件の災害にならないがヒヤリとした経験がある。】これは労働災害におけるハインリッヒの法則といわれ、医療ミスにも応用されます。(リンク、ハインリッヒの法則参照)医療現場で「ヒヤリ、ハット」の頻度が問題になるのはこの考えに起因しています。表に現れない小さなミスを減らすことで、最終的に発生する大きなミスを減らすことが最終目標です。●ミスは予測できます。大きなミスは突然起こるように見えますが、実は小さなミスの積み重ねが原因です。ヒヤリ・ハットのミスは誰もがところどころで必ず経験します。その時にすぐ改善しないと事故の可能性は増大します。ただし、同じような原因が重なっても実際に重大事故が発生する可能性はわずかです。そのため油断し、対策をとらなくとも大丈夫と過信しがちです。●起こったミスを次に生かすことが重要です。いったんミスが起これば、取り返しのつかないツケを払うことになります。絶対に同じミスを繰り返してはなりません。そのためには本人はもとより、他の医療者と飼い主全員がミスの事実を知り、知識を吸収できるようにしなければなりません。情報をいつでも共有できる書類や学術集会での報告などが必要です。インターネットを利用した情報交換も有効です。獣医師同士は、ミスを認めたくない、また互いに知られたくないと考えるかもしれません。しかしミスの可能性は誰でもほぼ同じであり、隠すメリットはありません。信頼を得るためには、隠さないこと、が重要な考え方です。(リンク各種記事その他、隠さない信頼 参照)さらに、ミスの事例を単純に集計しても意味がありません。どの領域、手順、職種にどのようなミスが発生しているのかを考えるべきです。●ミスに対する考え方を全員で変えるべきです。重大ミスには重大な責任が伴うことを共通概念として認識すべきです。そして責任追求と原因究明を同時に別々に進める必要があります。無用なミスを根絶するためには、ミスの本質を理解し、検証する必要があります。ミスを犯した本人が、「運が悪かった」、「残念だった」、などと不真面目に考えていると、周囲の人間に大きな迷惑をかけます。また、周囲の人間も上下関係や立場にこだわらず、誤りがあれば遠慮せずに指摘することも大切です。「他人のミスを笑うものは、いつか必ず同じミスをしでかします」全員がこのことを肝に銘じるべきです。●ミスを回避する具体的解決策を立てて実行しなければなりません。漠然とした取り決めや検証されない慣行を中止し、誰にとっても理解しやすい簡潔な手順を決めておけば、ミスの可能性は大幅に減少できます。「単純ミス、うっかりミスだから注意しましょう。」「たぶん疲れていたからミスをしただけだ。」このような精神的要素を強調してもヒューマンエラーは減少しません。●個人だけではなく組織的な取り組みが必要です。組織には潜在的な危険因子が潜んでいます。この危険を回避するため、組織には二重三重の防護壁(チェック機構)を設ける必要があります。この防護壁が効果的に機能せず、開いている複数の小さな穴が偶然重なった時に事故が発生すると言われます。(スイスチーズモデル、以下模式図)(参考文献;ジェームス・リーズン教授 組織事故−起こるべくして起こる事故からの脱出、日科技連出版社、1999)

今回の麻酔ミスは、許されないミスです。
手術室に心電図が常備されているのに装着しなかったことは明らかに愚かなミスです。しかし、心電図の不備だけで重大ミスが発生したわけではありません。呼吸、脈拍、瞳孔サイズ等の麻酔の基本的な観察不足が重なり、状態把握に失敗したのです。
心電図や点滴がなくても過去に死亡例がなかったかもしれません。しかし獣医師は血圧低下や呼吸微弱などの麻酔合併症を必ず経験します。麻酔の危険性をよく知っています。だからこそその危険を回避するために各種モニター類を装着して監視します。
予防できることをしない、それは許されないミスの典型です。その慢心の結果、各病院で同じようなミスが起こり続けます。ミスを検証しないばかりか嘘で隠すことは、今後もミスは繰り返されると宣言することと同じです。
ミスを検証して再発を予防すること。 これがミスから学ぶべき目標です。
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