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医療ミス交渉を考える
 
  飼い主が医療過誤裁判で勝訴するために!
 
獣医療問題を考える時、医療ミスの予防と回避は最も重要な課題です。しかし現実には全国各地で医療ミスが頻発しています。
飼い主は実際に発生したミスに対処することも現実的な課題です。
 
交渉の初期段階では、動物病院(担当獣医師)との対話による解決が考えられます。
対話による解決は、誠意や倫理などの社会的な要素も含まれ、双方にとって時間的にも精神的にも最も有効な解決策です。
ただし、対話が成立するためには、双方が医療ミスの存在を共通で認識していることが必要です。
獣医師にミスの認識がない時、獣医師がミスの存在を隠蔽する時、飼い主が直ちにミスと断定できず情報収集を要する時、などでは対話は困難といえます。
 
対話では解決されない場合、または獣医師が対話を拒否した場合、「裁判」によって解決を図ります。
多くの飼い主は、医療ミスを巡って獣医師と交渉することはまれな経験です。そのため、実際に裁判を始める飼い主達はさまざまな戸惑いを感じます。
 

● 医療過誤裁判の困難さ
 
医療過誤訴訟は、飼い主にとって複雑で困難な闘いです。以下のような課題があります。
 
(1) 原告(飼い主)に 「立証責任」があります。
不法行為(民法709条)、債務不履行(民法415条)のいずれでも、被害を受けた飼い主が獣医療ミスを証明しなければなりません。しかし、立証すること自体がかなり困難です。
 
 専門性が要求されます。しかし医療は複雑で豊富な知識が必要であり、情報収集に多大な時間と労力がかかります。
 ミスは密室で起こります。現場で起こったことを証明する確実な方法がほとんどありません。
 ミスは隠蔽されます。病院全体またはスタッフ同士は全員口裏を合わせて隠蔽しようと企みます。証拠隠滅やカルテ改ざんが容易になされます。
 
(2) 裁判官の資質、医学的知識、議事進行能力、の程度によって判決が複雑化、長期化するおそれがあります。
 
 被告(獣医師側)の戦略に対抗できるだけの医学的知識を持たない場合、鑑定書(鑑定人)が重要な判断材料になりがちです。外部の意見が裁判官の判断に大きな影響を与えます。
 被告は専門性を利用して争点を拡大あるいはぼかしてきます。審理初期の「争点整理」に時間がかかると裁判全体が長期化し、原告は疲弊します。
 裁判官は通常3年で異動するため、結審までに担当裁判官が交代することがあります。判決への影響も懸念されます。
 
(3) 獣医療裁判を引き受ける弁護士が多いとはいえません。
 
 医療訴訟は一般訴訟の2倍以上時間がかかりますが、勝訴率はせいぜい30〜40%(人裁判)しかありません。獣医療ではさらに低下する傾向があります。
原告のみならず原告弁護士もかなりの負担を強いられます。弁護士もまた膨大な医学知識を学ぶ必要があります。
 
 
医療裁判が時間と費用面からいって非効率的であるとの意見もあります。
しかし、事実を究明して社会的規範を作り上げることによって、個々の案件の解決にとどまらずその後の医療の方向を決定するという重要な社会的意義を持っています。
● 飼い主(原告)の心構え
 
医療過誤裁判が困難であるとはいえ、ミスを明確に証明し獣医師に非を認めさせる行動は重要であり避けて通れません。しかし勝訴のためには綿密で粘り強い行動が必要です。
 
● 交渉にあたっては、飼い主は相手から予期せぬさまざまな対応を受ける可能性を考慮しなければなりません。
 
医療ミス交渉は必ずしも順調に進むとは限りません。
ミスを認めない獣医師は、飼い主の追求をかわすために様々な対応をしてくるでしょう。
  
実際の経験談をもとに医療ミス交渉を考えてみます。
  (管理人注釈;以下はあくまでも個人的見解です。ご了承下さい)
 
 1.飼い主は強い信念を持ち、相手の揺さぶりに動じない精神状態を維持する。
 
 交渉では医学的事項と関係のない応答もあります。獣医師から心ない電話や非公式文書が送られたために、飼い主の感情(悲しみ、不安など)が著しく害され、精神健康障害をきたして交渉断念に追い込まれる例があります。
 拘束力のない非公式な方法で提示される言葉や態度は、受け流すことも必要です。
 相手は一定の意味と効果を狙って飼い主を揺さぶります。相手の思惑に左右されない冷静さが大切です。
 
 2.裁判官にも理解されやすい明確な争点で交渉に臨む。
 
 一般的に、飼い主は治療行為の医学的観点を争点として争いますが、獣医師または獣医師側弁護士によってその争点がはぐらかされ、あいまいにされることがあります。
 争点は簡潔に明確に決定しておく必要があります。
 和解でも判決でも、裁判官が決定します。裁判官が医療に精通しているとは限りませんから、理解しやすい争点であることはもっとも重要なことです。
(リンク集内 東京弁護士会会報に詳しく書かれています)
  
(例) 「動物の体質に問題があり、結果を予測できなかった。」
    (体質問題へ論点すり替え)
    「受診時すでに手遅れであり、どんな治療をしても助からなかった。」
    (治療時期と治療限界への論点すり替え)
 
 3.交渉は長期化することを覚悟し、心身を疲弊しないように時間と労力を配分する。
 
 飼い主にとって医療ミス交渉は不慣れで生活の多くを費やすため、精神的肉体的疲労は獣医師側よりも早く出現し気力は低下します。さらに金銭的負担も大きくのしかかります。一般に医療訴訟は、一審判決までに2〜3年間、費用は300万円程度と言われています。
 交渉の長期化は獣医師側に有利に働く可能性があります。原告の疲労と負担が増すのを待って、獣医師は和解で落ち着くことを期待しています。
 何事もスケジュール通りに進行しない前提のもとで計画をたてる必要があります。
 
(例) 飼い主の質問書面に対し、獣医師は後ろ向きあるいは論旨をはずれた回答に終始する。
 正当な理由なく、獣医師が出すべき書類(準備書面やカルテ、文献などの医学的資料等)の提出が遅延する。
万一カルテ改ざんや写真破棄が行われても、獣医師の医療過誤の認定を示す決定的な行為とはみなされません。
 
4.飼い主側(原告)の獣医師または関係者にもさまざまな圧力がかかると予測して、連絡を密にして連携を図りましょう。
 
 飼い主の主張に同意し、意見書提出や人証(証人喚問)などで協力しようとする獣医師に対して、反対勢力からさまざまな圧力(誹謗中傷、実力行使など)がかかることをあらかじめ念頭に置く必要があります。
 匿名電話や匿名の意見書、根拠のないビラ、が横行することがあります。このような不穏な動きは、獣医師側が主張根拠を失っていることの反映であると理解して完全に無視するのが賢明です。
 
5.被告獣医師はミスを否定するために、「医学的に嘘であっても正しい治療であると主張してくる」、と予想すべきです。
 
 明らかなミスがあってもミスでないと否定する獣医師は、医学的に正しいかどうかには価値を持っていません。
 医学内容がどうであっても、最終的にミスと認定されなければすべて許されると考えています。原告は、相手が尊敬すべき医療人であるとの意識は捨て去るべきです。
 
 
6.条件付き解決案(和解)が提示されたときの対応も念頭に置き、方針を決めておくこと。
 
 提訴がすべて判決となるわけではありません。交渉途中で和解が提案された場合、飼い主と獣医師の双方が条件に合意すれば和解は成立します。
 内容は、飼い主へ和解金支払い、慰謝料支払い、治療費返還、等があります。
 しかし、獣医師が慰謝料を支払うとしても、ミス認定の記載がなければミスはなかったことになります。
 ミスが認定されない和解案を許諾すると、最も知りたかった真実究明の道は閉ざされるおそれがあります。
 また、「診療内容や係争内容について一切口外しない」、との条件つきの和解もあります。これは、医療問題を公表させない目的もあります。いわば「口封じ」です。
 
 飼い主は和解条項をよく吟味の上、和解を受けるかどうか決断する必要があります。
 
 長期間にわたる交渉によって心身共に疲労が蓄積した時期に示される和解案は、争点がうやむやにされるおそれがあります。
 裁判終盤になって獣医師敗訴の可能性がでてくると、獣医師が和解案を提示することがあります。
 このような判決回避の目的で示される獣医療訴訟の一般的な和解金は、弁護士費用+100〜200万円程度が相場と言われています。大規模病院では500万円あるいはそれ以上が提示されることもあります。
 しかしながら、水面下では非常に高額な和解額を打診されながらも、敢えて判決の道を選択したケースもあります。
 
(例) 「獣医師に落ち度はなく過失は認めないが、動物が亡くなったことについては気の毒なので飼い主に慰謝料を支払い、治療費を減額する。ただし、今後飼い主はこの和解案件を一切口外しないこととする。」
 
 
 
● 医療ミスを証明するためには、飼い主は多くの情報を収集し、医学知識を学ばなければなりません。他人任せでは進みません。
 
 裁判は証拠至上主義であり、文書に記載された客観的な事実が議論されます。悲しみや怒りなどの精神的ダメージは重要視されません。
 飼い主はミスの具体的根拠を示しながら交渉に臨む必要があります。
 しかし、弁護士や裁判官といえども、獣医学に詳しいとは限りません。
 交渉の方向性を決定するために、飼い主自身も治療について知識を学ぶ必要があります。
 医学文献を収集したり協力者や獣医学専門家を募ったりするなど、体制を整えることが必要です。
勝訴のためには、緻密かつ地道な努力を続ける以外にありません。
 
 
 
●交渉時には、確固たる信念と明確な目的意識を持たなければなりません。
 
 医療ミス追求は一時の感情にまかせた行動だけでは成就できません。
 状況を冷静に見つめる視点と追求への強い決意が求められます。
 「獣医師に対して最終的に求める目的は何でしょうか?」   
 「妥協できることとできないことは何でしょうか?」
 裁判をすすめるにあたり、争点と目的を明確にすることは交渉の基本的事項です。
 常にその点を明確にすることにより、交渉時の迷いは減少するものと考えます。
 
 
 
医療ミスの疑問を明らかにすることは、飼い主にとって当然の考え方であり正しい行動です。
そして実際に発生したミスの問題点を公の場で明確にすることは、今後の獣医療の発展にとってプラスになると考えます。
時代は、医療ミスを問題視して表面化させる方向にますます動いていくでしょう。同様に、医療ミスに対して飼い主と獣医療者の意識が変化することも必然と考えます。
 

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